奈良県宇陀市榛原(はいばら)の山あいに、ひっそりとたたずむ戒場神社(かいばじんじゃ)。その境内に立つ一本の大樹──それが、日本一の太さを誇るホオノキ(朴の木)です。
ただ大きいだけではありません。
このホオノキは、奈良県指定天然記念物であり、新日本名木100選にも選ばれた、まさに“生きる文化財”ともいえる存在。
今回は、この圧倒的な存在感を放つホオノキと、戒場神社の歴史、そしてその魅力についてご紹介します。
戒場神社のホオノキとは?
樹齢は数百年、幹周約8mの巨木
戒場神社のホオノキは、幹周およそ8mといわれ、全国でも最大級の太さを誇るホオノキです。
一般的にホオノキは幹周3〜4mでも“巨木”とされる中で、この大きさはまさに別格。しかも、このサイズの木が今もなお生き続けているという点で、極めて貴重な存在です。
現在も生き続ける“奇跡の樹”
このホオノキは主幹をすでに失っており、幹の内部は空洞化しています。
にもかかわらず、春にはモクレン科特有の大きな花芽を膨らませ、新芽を吹き、花を咲かせる──
その姿はまるで、長い時間を超えてなお“生きる力”を全身で語っているかのようです。
ホオノキとはどんな木?





大きな葉と芳香、そして生命力
ホオノキはモクレン科の落葉高木で、日本固有の木として知られています。山地を中心に広く分布し、高さは20m以上にもなります。
特徴は何といっても、大きく肉厚な葉と白く大きな花。葉は30cm以上になることもあり、香りがよいため古来より料理の器や包み葉(朴葉味噌など)としても親しまれてきました。
また、その花や葉、木質にも芳香成分が含まれ、和のハーブとしての役割も果たしてきた歴史があります。
戒場神社とホオノキのつながり
神社と巨木の関係性
日本の神社には、「ご神木」として巨木を祀る文化があります。
戒場神社のホオノキも例外ではなく、この土地に生まれ育ち、長い時間を見守ってきた“神聖な存在”として、地域の人々に大切に守られてきました。
木そのものが神の依り代となるという信仰は、古来より日本各地に見られるものであり、特にこうした人里離れた神社では、自然と信仰が強く結びついています。
隣接する戒長寺と“葉つきイチョウ”
聖徳太子ゆかりの地に根付く自然の遺産
戒場神社は、隣接する**戒長寺(かいちょうじ)と同じ敷地にあります。
戒長寺は聖徳太子の創建と伝えられる歴史ある寺で、その楼門のすぐ横には、こちらも県指定の天然記念物である「葉つきイチョウ」**がそびえ立ちます。
つまりこの一帯は、自然と信仰が重層的に共存する“歴史と生命の交差点”ともいえる場所。
ホオノキとイチョウ、それぞれ違う樹種でありながら、共に数百年の時を刻んできた“森の主”として、静かにその場に立ち続けています。
アクセスと訪問時の注意点
- 所在地:奈良県宇陀市榛原戒場388
- アクセス:近鉄「榛原駅」より「天満台東3丁目」行きバスに乗車、「天満台東2丁目」下車後 徒歩約30分
- 駐車場:軽自動車1台分のみ。道が狭くガードレールのない山道が続くため運転は慎重に
自然環境を守るためにも、現地では静かに鑑賞し、むやみに木に触れないようにしましょう。
また、山間部のため、雨天後は足元が滑りやすくなるので靴選びにもご注意を。
木が語る、長い時の記憶に触れる旅
戒場神社のホオノキに出会うと、「木はただの資材や景観ではなく、“生き物”なのだ」と実感します。
風に吹かれてきしむ枝、空に向かって伸びる新芽、空洞になった幹の中に残る湿り気──
それらすべてが、「生きてきた証」であり、「まだ生きているという強さ」なのです。
もしあなたが少しだけ、日々の喧騒から離れて自然と向き合いたいと思ったなら、
このホオノキは、きっと“静かに、でも確かに”あなたの心を揺さぶってくれるはずです。
命の遺産として、未来へ受け継がれる木
戒場神社のホオノキは、ただの大木ではありません。
それはこの土地の文化、信仰、自然との共生の象徴であり、未来に残すべき「生きた文化財」です。
私たちが木を見て何を感じるか。
それは時に、「人の暮らしよりも長く生きる存在」とどう向き合うかという問いでもあります。
木に守られ、木に癒され、そして木と共に生きていく──
そんな暮らしを、これからも大切にしていきたいですね。

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