素材選びでここまで変わる
今回ご紹介するのは、奈良県香芝市にて施工した古民家リノベーションの一例です。現代的な機能性と伝統建築の美しさを融合させたこの空間は、「木」そのものの魅力を最大限に引き出した住まいとなっています。
使われている主な素材は、ブラックチェリーの一枚もの複合フローリングと、アッシュ(タモ)にスプーンカット加工を施した床材。さらに、造作収納や壁面にもブラックチェリーの突板を採用することで、空間全体に統一感と高級感をもたらしています。
空間を引き締める「ブラックチェリー」の床
色味と艶感が絶妙なブラックチェリー
フローリングには、天然木ならではの豊かな表情を持つブラックチェリーの一枚もの複合フローリングを採用しています。使い込むほどに深みを増し、経年変化によってより味わい深くなる樹種として、特に設計士や建築家に人気があります。
この空間では、天井や柱などの構造材にもこだわりの無垢材がふんだんに使用されており、ブラックチェリーの上品な赤みが全体の色調を引き締めています。テレビ背面のパネルや収納部分も同系色で揃えることで、視覚的なノイズを抑え、心地よい統一感を演出。
















ブラックチェリー材の経年変化とメンテナンス方法
淡い色から深みのある赤褐色へと変化する魅力
ブラックチェリー(アメリカンブラックチェリー)は、北米原産のバラ科サクラ属の広葉樹で、家具やフローリング材として長く愛されてきた高級材のひとつです。
施工直後のブラックチェリーは、意外にもやや黄味がかった淡いピンクベージュ系の色調をしています。しかしこの色合いは、時間とともに劇的に変化します。
紫外線(特に日光)や空気中の酸素と反応することで、数週間〜数ヶ月のうちに徐々に深い赤褐色へと変化。この変化の過程は「飴色になる」と表現されることもあり、経年変化を楽しむ無垢材ファンにとってはたまらない魅力です。

この変化が顕著に表れるのは、窓際など日光が差し込む部分。逆に、ラグや家具で日光が当たらない部分は色の変化が遅れるため、使い始めてしばらくの間は「日焼けムラ」が生じることがあります。しかし、時間とともに全体が落ち着いたトーンに収まり、室内に統一感が生まれていきます。
お手入れの基本は「乾拭き」と「換気」
ブラックチェリー材は比較的緻密で滑らかな木肌を持ち、表面の手触りもよく、日常のメンテナンスも容易です。
- 柔らかい布での乾拭きが基本
- 掃除機を使う場合はブラシ付きノズルを使用
- 汚れが気になる場合は固く絞った布で軽く水拭き → すぐに乾拭き
日焼けと乾燥対策で長く美しく
- UVカットのカーテンで直射日光を和らげる
- 冬場は加湿器で湿度を40〜60%に保つ
- 家具脚にフェルトを貼ることで凹みを予防
🍵円形ソファの特別な空間に「スプーンカット」のアッシュ
職人の手仕事が光る表面加工
円形のソファエリアの床材には、アッシュにスプーンカット加工を施した特注フローリングを使用。スプーンカットとは、木の表面に手彫りのような凹凸模様を付ける仕上げ方法で、触れるとまるで彫刻作品のような立体感が感じられます。





足元が自然とこの場所に導かれるような演出になっており、ここが空間の「核(コア)」であることを視覚的に伝えています。夜間には間接照明の光がこの凹凸に反射して、美しい陰影を生み出します。
キッチン・ダイニング空間はまさにギャラリー
開放感と木のぬくもりが共存するLDK
この古民家はもともと重厚感のある和建築でしたが、リノベーションによって壁を取り払い、光を取り込む大空間のLDKへと生まれ変わりました。キッチン背面には収納付きの大型パネルを設置し、ブラックチェリーの突板で仕上げています。
天井には網代(あじろ)天井を彷彿とさせる格子組みの天井材が採用されており、光の陰影が美しく、日本建築らしさを残しつつモダンな意匠を実現。
また大きな開口部を設け、外庭との視線のつながりを意識。縁側の床材にも同様のブラックチェリーを使用しており、内外の境界を曖昧にしています。これにより、まるで屋外まで一体となったかのような開放感を味わえます。
細部に宿る、職人の技とこだわり
この物件では、ただ高価な材料を使っているだけでなく、「どの部分にどの木を使うか」まで計算された設計がなされています。
- 柱や鴨居は光の入り方に合わせて色のトーンを揃える
- ソファの内外で仕上げを変えて空間にメリハリをつける
- 同一材種でも塗装の艶感を変えて立体感を生む
「木」を生かすことで空間は生き返る
- ブラックチェリーの経年美と重厚感
- アッシュのスプーンカットによる手触り
- 和とモダンが調和する空間設計
- 内外のつながりを意識した開放的な導線
木という素材の魅力を最大限に活かすことで、ただの「リノベーション」ではなく、「再創造」に近い空間が実現しました。


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