自然が生んだ“雷の痕跡”を美として捉える
250年の命が刻んだ裂け目は偶然が生んだ芸術
奈良の山で250年以上もの歳月をかけて育った一本の桧。
この一枚板は、その長い命の物語を宿しながら、まるで自然が意図して描いたかのような割れを中央に抱えています。しかもその割れは、伐採や乾燥ではなく、「落雷」によって生まれたもの。雷が木に直撃したとき、その内側の水分が瞬時に膨張し、樹皮や幹を裂くという現象があり、この板にはその痕跡がはっきりと残っているのです。
僕自身、無垢材の仕事をしていて、こうした“偶然が生んだ造形”に強く心を惹かれます。デザイナーの意図を反映させた完璧な曲線や整ったシンメトリーも美しいですが、それ以上に、自然が時間をかけて刻んだものには、言葉にできない説得力と深みがあります。人の力では到底つくり出せない、野生の線。これをどう受け止め、どう仕上げるかが、僕たちの役割だと思うのです。

この一枚板は、厚さ55mm、幅は560~840mm、長さ2500mmという堂々たるサイズ。真ん中を縦に貫くように走る割れは、まさに雷の軌跡そのもの。ここにわずかにレジンを流し込むことで、自然と人の手が重なり合うようなデザインに仕上がります。
割れや欠点を“価値”に変えるという発想
かつて木材において「割れ」「節」「シミ」といった部分は“欠点”とされていました。けれど今の時代、それはむしろ“木が生きた証”として評価されるようになってきています。自然素材が持つ個性は、整った人工素材にはない魅力を放ちます。
この天然桧に走る落雷の割れも、「傷」ではなく「物語」として捉えるべきでしょう。そしてそれを美しさに変える手段が、“現代の金継ぎ”ともいえるレジン加工です。透明なレジン、あるいは金粉を混ぜた煌めきのあるレジンを流し込むことで、割れを隠すのではなく、むしろ際立たせます。
まるで壊れた器を金で継ぐように、木のストーリーを尊重しつつ、より深みのある造形へと昇華させていく。この考え方は、僕自身が木と向き合う中で、常に大切にしている哲学でもあります。
レジンを控えめに使うからこそ木が際立つ
わずかなレジンで仕上がる“余白の美”
近年はレジンを大胆に使ったテーブルが人気を集めています。透明やカラーのレジンで川のような流れを表現したり、広い範囲をレジンで覆ったりするデザインも魅力的です。ただ、僕はレジンをアクセント程度にとどめて、木そのものの表情を活かすデザインにこそ、心惹かれます。
この桧のように、自然の偶然が生んだ一本の割れ。その割れにだけ、ほんの少しのレジンを流し込むことで、素材の持つ力強さや美しさがぐっと引き立ちます。これはまさに“引き算の美学”です。木を主役にし、レジンは脇役。けれど、その脇役があることで全体が引き締まり、洗練された印象を与えるのです。

たとえば、透明レジンに金粉や真珠粉を混ぜて“金継ぎ風”に仕上げれば、和の空間にもぴったりの静謐な美しさに。ナチュラルな空間に溶け込ませたいなら、無色透明のままで清廉な印象に。使うレジンの種類や色によっても、全く異なる世界が広がります。
光の加減で表情が変わる唯一無二の天板
この一枚板の魅力は、時間や光の角度によって表情を変えるところにもあります。日中の自然光の下では、桧の淡いピンク色が柔らかく浮かび上がり、レジンはほとんど目立たないほど静かに佇んでいます。けれど夜、照明の光を受けたとき、レジンが雷のようにきらりと光り、まるでその瞬間だけ命を持ったような輝きを放ちます。
これは、大量のレジンを使ったデザインでは味わえない、“静と動”のコントラストです。木は時とともに色味や艶を深めていきますが、レジンはその透明感を保ち続けます。このコントラストこそが、年月を重ねることでより美しくなるレジンテーブルの真骨頂。インテリアとしてだけでなく、“育てる家具”として永く愛される存在になるのです。
奈良県産の天然桧が持つ力と香り
植林材にはない“自然が磨いた密度と艶”
この桧は、奈良県の山で自然のままに育った天然木。植林された桧と比べると、木目の詰まり方が全く違います。一年ごとの成長がゆっくりなため、年輪は細かく、木肌にはしっとりとした艶が生まれます。触れたときの質感、香り、重み――どれをとっても、工業的に育てられた木とは一線を画しています。
加えて、厚さ55mmという存在感も魅力のひとつです。この厚みがあるからこそ、レジンを流しても埋もれることなく、木とレジンがしっかりと“対話”をしているようなバランスになります。見た目のインパクトだけでなく、家具としての耐久性や重厚感にも優れ、長く使える実用品としても非常に価値があります。
天然木ならではの芳香と経年変化
桧は古来より“神聖な香り”とされ、神社仏閣にも多く使われてきました。特に奈良県産の天然桧は香りが強く、空間に清らかさをもたらします。この板も例外ではなく、加工前の状態でもすでに芳香が漂い、触れているだけで心が落ち着くような感覚を覚えます。

そして、無垢材ならではの楽しみが「経年変化」。使うごとに少しずつ色が深まり、艶が増していきます。まるで木が呼吸しながら、時間とともに姿を変えていくように。その過程すらも、家具の魅力の一部として受け入れていくことが、自然素材を愛する者にとっての喜びです。僕自身、この“変化を楽しむ”という価値観をとても大切にしています。
素材としての可能性──オーダーか、自作か
フルオーダーで仕上げる世界に一つの作品
この天然桧は、現在“素材”の状態です。つまり、まだどんな形にも変わる可能性を秘めているということ。エコロキアでは、この素材を使ってフルオーダーのレジンテーブルを製作することが可能です。レジンの種類・色・脚部のデザイン・サイズなど、お客様とじっくり相談しながら、空間や用途に合わせた一点物をお作りします。
落雷の割れに透明なレジンを流して、その美しさを閉じ込めるもよし。金粉や顔料を加えて華やかに仕上げるもよし。あなたの好みや使いたいシーンに合わせて、木と向き合いながらじっくりと作品を育てていきましょう。製作後もメンテナンスや再塗装のご相談が可能なので、安心して“長く付き合える家具”としてご提案できます。
制作体験ワークショップで自分だけの一枚を作る
もう一つの選択肢が、レジンテーブル制作体験ワークショップ。この桧の板を素材として、参加者自身の手でレジンを流し、研磨し、世界に一つだけの作品を完成させることができます。スタッフのサポートもありますので、初心者でも安心。ものづくりが初めての方にもおすすめです。
自分の手でレジンを流し込む瞬間、そしてサンダーで磨き上げたときの達成感。完成したときに感じる「これは自分が作ったんだ」という実感は、既製品では決して味わえない特別なものです。特に、このような“偶然の割れ”がある素材に手を加えることで、自然と深く対話したような感覚を覚えることでしょう。
よくある質問
- Q落雷によって割れた桧の一枚板は、強度的に問題ありませんか?
- A
現状では裏面まで割れが貫通しているため、このままでは強度的に問題があります。そのままテーブルとして使用すると、天板が反ったり割れが広がる恐れがあります。
エコロキアでは、割れ部分にレジンを充填して補強する方法、または「ちぎり(蝶形)」加工による補修を推奨しています。どちらの方法も、木の割れを止めながらデザイン的にも美しく仕上げることができるため、強度と意匠性を両立できます。特にこの桧のような落雷痕のある素材は、補強そのものがデザインの一部になる点も魅力です。
- Qこの桧の一枚板をそのまま購入することはできますか?
- A
はい、素材としての販売が可能です。現在は未加工の状態ですので、DIYで製作したい方や、プロの木工家の方にもおすすめです。厚み55mm・長さ2500mmというサイズのため、加工にはしっかりした作業スペースと道具が必要です。ご希望があれば、適切な補修方法(レジン補強・ちぎり加工)についてもアドバイスいたします。
- Qこの素材を使ってフルオーダーでテーブルを作ってもらうことはできますか?
- A
もちろん可能です。落雷による割れをレジンで金継ぎのように埋めるデザインや、割れを残したままちぎり加工で補強するなど、お客様のご希望に合わせた仕上げをご提案いたします。脚部デザインやレジンの色味、仕上げの艶感まで自由にカスタマイズでき、世界にひとつだけのテーブルとしてお届けします。
- Qレジンテーブル制作体験でこの桧の素材を使うことはできますか?
- A
はい、可能です。ただしこの桧は非常に希少で割れが深いため、通常の素材よりも施工に時間がかかります。体験時にはスタッフがサポートし、適切なレジン量や補強方法をアドバイスいたします。自然の偶然が生み出した造形を、自分の手で完成させる特別な体験になります。
- Qちぎり加工とはどんな方法ですか?どんな効果がありますか?
- A
ちぎり加工とは、木の割れ部分に「蝶の形」をした木片を埋め込んで割れの進行を防ぐ伝統的な技法です。単なる補修ではなく、装飾としても美しいため、割れを“デザインとして見せる”ことができます。特に天然桧のような明るい木肌には、ウォルナットなど濃い色のちぎりを組み合わせるとコントラストが際立ち、上品で力強い印象になります。

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