手違い紫檀とは?ベトナムで“チンチャン”と呼ばれる高級木材の正体
天然木の世界には、耳にしただけで「なぜそんな名前が付いたのだろう?」と気になる不思議な名称がいくつも存在します。その中でも特にユニークな呼び名のひとつが「手違い紫檀(テチガイシタン)」です。紫檀といえば古くから高級材として知られるローズウッドの仲間ですが、そこに「手違い」という日本語が組み合わさっていることに違和感を覚える方も多いでしょう。
実はこの木材、東南アジア、特にベトナムやラオスで産出される「チンチャン(Chinchan)」という樹種で、日本に入ってきた際の流通経緯や分類の混乱が、このユニークな名前の由来となっています。今回は、木材バイヤーとして僕が実際にベトナムで体験したエピソードを交えながら、手違い紫檀という木の正体に迫ってみたいと思います。
紫檀とローズウッドの世界
紫檀とは何か
紫檀(ローズウッド)はマメ科の広葉樹で、インドから東南アジアにかけて広く分布します。その名の通り紫がかった深い赤褐色が特徴で、重厚感と高い硬度を備えており、古くから高級家具、仏壇、唐木細工、さらにはギターやクラリネットなどの楽器材として重宝されてきました。
木材業界では「ローズウッド」という英語名が広く使われますが、日本では特に唐木材として「紫檀」「本紫檀」などの名称が定着しています。
手違い紫檀の位置づけ
手違い紫檀は、そうした「本紫檀」とは異なる樹種でありながら、外観や質感が似ているために紫檀類として扱われてきました。輸入の際に本紫檀と誤認されたり、分類が曖昧だったことから「手違いで紫檀の仲間に入れられた」という背景があり、そのまま「手違い紫檀」という名前が定着したとされています。
つまりこれは「紫檀の代替材」「紫檀に似た木」としての立ち位置を表す名前でもあるのです。
ベトナムでの呼び名「チンチャン」
私が無垢フローリングのバイヤーとして頻繁に訪れていたのが、東南アジアの中でもベトナムです。ベトナムは木材加工の盛んな国で、多くの工場が集まり、世界各国に輸出を行っています。

その中で印象に残っているのが、現地で「チンチャン(Chinchan)」と呼ばれる木材との出会いです。工場を訪れた際に見せてもらったのは、このチンチャンを使用した複合フローリング。赤褐色に黒い縞が入り混じった独特の木目は、確かに紫檀に似ており、非常に重厚感のあるものでした。
そして驚いたのはその価格です。現地担当者が口にした販売価格は、なんと 平米あたり1000ドル。当時の日本円に換算すると10万円を超える高級材です。これは一般的なオークやアカシアの無垢フローリングが数千円から数万円で流通していることを考えると、桁違いの価格帯でした。担当者も「この材はベトナム国内でも富裕層しか手が出せない」と語っていたことを覚えています。

手違い紫檀の特徴と魅力
1. 色合いと木目
手違い紫檀は、深い赤褐色をベースに黒褐色の縞模様が入り、使い込むほどに光沢と重厚感を増していきます。唐木家具や高級内装材としても映える存在感があります。
2. 高い硬度と耐久性
比重は0.85前後と非常に重く、衝撃や摩耗に強い性質を持ちます。そのためフローリング材としても高い耐久性を発揮し、長期にわたって使用できる材質です。
3. 加工の難しさ
硬さゆえに製材や加工には高度な技術が必要で、乾燥も難しい材です。ひび割れや反りを防ぐには適切な管理が不可欠で、この点も価格を押し上げる要因となっています。
4. 代替材としての役割
本紫檀に比べれば流通量は多く、代替材として扱われてきた歴史があります。とはいえその美しさと耐久性から、十分に高級材としての魅力を持っています。
名前に込められた流通の歴史
木材の名前は、その土地の言語だけでなく、商習慣や流通の歴史を色濃く映し出します。同じ木でも国ごとに呼び方が変わり、日本に入ってくる段階で誤って分類されたり、意図的に市場性を持たせるために別の名前を与えられることも少なくありません。
手違い紫檀はその典型であり、「紫檀ではないが紫檀に似ている」という曖昧さが、日本の商人たちのユーモラスな命名によって形になったのです。このような背景を知ることで、ただの「木の名前」以上に、その背後にある人々の営みや文化の交流までも垣間見ることができます。
天然木が持つ物語
私がこの手違い紫檀に出会ったのは十数年前のベトナムでしたが、その時の衝撃は今も鮮明に残っています。木材にはそれぞれの物語があり、名前ひとつにも流通の歴史や人々の価値観が反映されているのです。

手違い紫檀という名前は、単に珍しい呼び名ではなく、紫檀というブランド性に寄せられた木材の歩んできた歴史そのものを表しています。そして、その背後には「本物を求める人々の憧れ」「代替材に価値を見出す商人の工夫」「地元の文化と富裕層市場」という複雑な要素が絡み合っています。
「手違い紫檀」という名前を聞くだけでは、その木がどのような存在なのか想像しにくいかもしれません。しかしその背後には、紫檀に似た美しい材としての価値、バイヤーの間での混乱、そして現地での高級市場における存在感といった、豊かな背景が隠されています。
ベトナムで「チンチャン」と呼ばれ、平米あたり1000ドルという驚異的な価格で流通していたこの木材。私自身がその場に立ち会った体験は、天然木という世界が単なる素材の集合ではなく、歴史や文化、人々の営みを映し出す“物語”であることを改めて感じさせてくれました。
無垢フローリングや家具を選ぶ際、樹種の名前の裏にあるストーリーを知ることで、より深い愛着を持って木と付き合うことができるはずです。

コメント