コラム樹木・木の文化

御所市で出会った大和ハープと木材の話|ものづくりの町で知った“楽器に使われる木”

ギターと大和ハープによる演奏会の様子。木製のハープと演奏者が向かい合って音を奏でている コラム
午後の制作を再開しようとした矢先、店内で始まったギターと大和ハープの演奏。 サクラ材のベース、スプルースの反響板、ローズウッドの側面。 ギターを弾く方が手作りされたという大和ハープは、音色だけでなく造形も美しく、気づけば受講生全員が作業の手を止めて聴き入っていました。

レジンテーブル制作体験で通ううちに、御所市が特別な場所になった

仕事で訪れたはずの町が、居心地のいい場所に変わっていく

レジンテーブル制作体験ワークショップのために、定期的に奈良県御所市を訪れるようになりました。
最初は「仕事で行く場所」という意識が強かったのですが、通う回数を重ねるごとに、その印象は少しずつ変わっていきました。道の空気感、山の近さ、人との距離感。どれもがどこか落ち着いていて、構えずにいられる町だと感じるようになったのです。
昨日も受講生のみなさんと一緒にランチに出かけ、午後からの制作に備える、いつもの流れのはずでした。しかし、その「いつも」の一日が、思いがけない出来事で特別な時間に変わりました。

偶然の出会いが町への愛着を深めていく

お気に入りの「山麓カフェ」でお正月らしいランチをいただき、さあ午後も制作体験を頑張ろう、と思っていた矢先のことです。

お正月らしい前菜と巻き寿司、稲荷寿司、黒豆や数の子が盛り付けられた山麓カフェのランチプレート
レジンテーブル制作体験ワークショップの合間に、受講生のみなさんと御所市の山麓カフェへ。
黒豆や数の子、巻き寿司や稲荷寿司など、お正月らしさを感じる優しい味わいのランチで、午後からの制作に向けてしっかり英気を養いました。

たまたま居合わせた別のお客さんによって、大和ハープの演奏会が始まりました。予定されたイベントではなく、あくまで偶然。その場に居合わせた人たちだけが共有できる時間でした。こうした「狙っていない出会い」が自然に起こること自体、この町の懐の深さなのかもしれません。御所市は、訪れるたびに少しずつ距離が縮まり、気づけば「好きな場所」として心に定着していました。

作業の手が止まるほど、音には力があった

大和ハープの音色が流れた瞬間、空気が変わった

演奏が始まると、不思議なことに店内の空気が一変しました。
会話は自然と消え、誰もが音に耳を傾ける状態になります。午後の制作工程や段取りを考えていた頭は一旦リセットされ、ただ音に身を委ねる時間が流れました。ものづくりの現場では「集中」が大切ですが、このとき感じたのは、集中にもいろいろな形があるということでした。手を動かす集中ではなく、感じ取る集中。どちらも、良いものを生み出すためには欠かせない時間だと改めて感じました。

木の音は、人の感覚をやさしくほどいてくれる

大和ハープの音色は、派手さや主張の強さではなく、静かに体に染み込んでくるような響きでした。
これは金属や電子音では決して出せない、木という素材ならではの特性だと思います。木は振動を受け止め、少し丸めて返してくれる素材です。そのため、音に角が立たず、人の感覚を緊張させません。気づけば受講生のみなさんも、時間を忘れて聴き入っていました。

大和ハープに使われていた木材が示す「役割分担」

サクラのベースが支える、楽器としての骨格

この大和ハープのベース部分にはサクラの木が使われていると聞きました。

店内で演奏準備が進められる、木製フレームが美しい大和ハープと調整を行う演奏者
ランチ後、思いがけず始まった大和ハープの演奏会。
演奏前に調整される姿を間近で見ると、その曲線や木組みの美しさに思わず見入ってしまいます。
楽器である前に、ひとつの木工作品のような存在感でした。

サクラは適度な硬さと粘りを持ち、衝撃や力を受け止めるのに向いた木材です。家具や建材としても安定感があり、経年変化も穏やかです。楽器においては、全体を支える骨格として重要な役割を担います。見た目の美しさだけでなく、「長く安定して使えること」が前提にある素材選びだと感じました。

スプルースとローズウッド、それぞれの理由

反響板にはスプルース、側面にはローズウッドが使われていました。スプルースは軽く、振動伝達に非常に優れた木材で、ギターやバイオリンの表板としても定番です。一方ローズウッドは重く、音を引き締める役割を果たします。この組み合わせは偶然ではなく、「鳴らす部分」「支える部分」「締める部分」を明確に分けた設計です。
これは建築や家具づくりにも通じる考え方で、木を知る人ほど素材を混ぜて使います。

楽器と家具、違うようで同じ「木との向き合い方」

見た目だけで木を選ばないという共通点

楽器づくりも家具づくりも、最終的に問われるのは「なぜこの木なのか」という理由です。
色がきれいだから、珍しいから、という理由だけでは長く使えるものにはなりません。音を鳴らすため、荷重を支えるため、触れたときの感触を整えるため。それぞれに役割があり、適材適所があります。今回の大和ハープを見て、その考え方が非常に明確に表現されていると感じました。

木は、用途が決まった瞬間に本領を発揮する

木は万能ではありません。
しかし、用途がはっきりした瞬間に、驚くほど力を発揮します。楽器では「鳴ること」、家具では「支えること」「寄り添うこと」。目的が違えば、選ぶ木も加工方法も変わります。レジンテーブル制作体験でも、ただ美しい木を使うのではなく、「どう使われるか」を最初に考えることを大切にしています。その点で、今日の演奏会は、ものづくりの原点を思い出させてくれる出来事でした。

御所市という町が、ものづくりの感覚を育ててくれる

人と木と音が、自然につながる場所

御所市で感じる心地よさは、単なる環境の良さだけではありません。
人との距離感、自然との近さ、そして偶然を受け入れる余白。今回のように、予定外の演奏会が自然に始まり、それをみんなで受け止める空気感は、簡単に作れるものではありません。ものづくりに必要な「余白」が、この町にはあると感じています。

ここで出会ったご縁を、これからも大切にしたい

レジンテーブル制作体験を通じて生まれた御所市とのご縁は、今回の出来事でさらに深まりました。仕事として訪れているはずなのに、気づけば町そのものに愛着を持っている自分がいます。木が鳴り、人が集まり、時間が少しだけゆっくり流れる。そんな御所市での体験を、これからも大切に積み重ねていきたいと思います。

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