昨日は2026年、最初の奈良県御所市のアトリエでのレジンテーブル製作体験ワークショップでした。
そんなワケで今年も奈良県にはお世話になりそうなので、同じ奈良県の吉野杉について解説したいと思います。
そもそも「杉の無垢フローリング」は何が違うのか
杉はどこでも同じ、ではないという前提
無垢フローリングを検討していると、「杉は国産で安くて柔らかい」というイメージを持たれることが多くあります。確かに、日本各地で杉は植林され、床材としても広く使われています。しかし現場で実際に施工し、長年使われた床を見ていると、「杉」という一括りでは語れない差があることが分かります。

杉は成長の仕方、伐採時期、乾燥方法、製材精度によって、床にしたときの性格が大きく変わります。特に重要なのが「年輪の密度」と「材質の均一性」です。これは見た目以上に、反りやすさ、表面の安定性、経年後の表情に影響します。つまり、同じ杉でも「床材として設計されてきた杉」と「たまたま床に使われた杉」では、住み始めてからの印象が変わってくるのです。
無垢フローリングとして杉が選ばれる理由
それでも杉が無垢フローリングとして選ばれる理由は明確です。第一に、足触りの柔らかさです。冬でも冷たく感じにくく、裸足で歩いたときの感触がやさしい。第二に、軽さと加工性の良さがあります。住宅への負担が少なく、リフォームやマンション施工でも扱いやすい素材です。
一方で、柔らかさはそのまま「傷がつきやすい」という特性につながります。
この点を理解せずに選ぶと、「思っていたより傷だらけになる」という不満につながります。杉の無垢フローリングは、性能の良し悪しではなく、「暮らし方との相性」で評価が決まる床材だという前提を、まず押さえておく必要があります。
吉野杉と他県産杉の違いはどこにあるのか
吉野杉が「林業の完成形」と言われる理由
吉野杉が他県の杉と大きく異なる点は、その育て方にあります。吉野地方では、数十年から百年単位での林業計画が組まれ、間伐を繰り返しながら木を太らせていきます。その結果、年輪が非常に細かく、材質が均一になります。これは自然に任せて育った杉では、なかなか得られない性質です。

年輪が細かく均一な材質が生まれる背景には、こうした林業の積み重ねがあります。
床材として見た場合、この年輪の密度は非常に重要です。年輪が粗い杉は、湿度変化による伸縮が大きく、反りやすい傾向があります。一方、吉野杉は動きが比較的穏やかで、表面の荒れも出にくい。柔らかい杉でありながら、「雑に扱うとすぐ荒れる」という印象を受けにくい理由が、ここにあります。
他県産杉が劣っているという話ではない
ここで誤解してはいけないのは、「他県産杉=悪い」という話ではないことです。例えば九州産杉や四国産杉、東北産杉など、それぞれに特徴があります。成長が早い杉は軽く、価格も抑えやすいため、コストを重視した住宅では十分に選択肢になります。
ただし、床材として長期使用を前提にした場合、施工後数年での反りや隙、表面の荒れ方に差が出ることがあります。これは産地の問題というより、「床材としてどう育てられ、どう乾燥され、どう製材されたか」の違いです。吉野杉は、この工程が一貫して床用途を前提に組まれてきた点で、他県産杉とは立ち位置が異なります。
実際に住んでから感じる違い
足触りと空間の印象の違い
施工直後の印象では、吉野杉も他県産杉も、大きな差を感じないことがあります。どちらも柔らかく、明るい色味で、空間を軽やかに見せてくれます。しかし、数年経った後に差が出ます。
吉野杉は、色味が徐々に落ち着き、木目が浮かび上がってきます。傷が増えても、それが空間に馴染みやすい。一方、年輪が粗い杉は、表面の凹凸が強調され、使い方によっては「荒れた印象」が先に立つことがあります。これは好みの問題でもありますが、「経年変化を楽しみたい」という視点では、吉野杉の方が評価されやすい傾向があります。
メンテナンス時に見える差
無垢フローリングは、将来的に研磨して再生できる点が大きなメリットです。このとき、材質の均一さが効いてきます。吉野杉は、研磨後の表情が比較的揃いやすく、ムラが出にくい。一方、成長の早い杉では、早材と晩材の差が強く出て、研磨後に表情がばらつくことがあります。

これは施工時には見えにくい違いですが、10年、20年と使う中では無視できないポイントです。張り替えではなく「直しながら使う」ことを前提にするなら、材の性格は重要な判断材料になります。
向いている人・向かない人の分かれ目
吉野杉が向いている暮らし方
吉野杉の無垢フローリングは、以下のような方に向いています。
・裸足で過ごす時間が長い
・傷を欠点ではなく、生活の痕跡として受け止められる
・定期的な手入れを前提に考えられる
・国産材や林業背景に価値を感じる
これらに当てはまる場合、吉野杉は満足度の高い選択になります。特に、時間とともに床が育っていく感覚を楽しめる方には、他の杉材では得られない魅力があります。
他県産杉や別樹種を検討した方がよいケース
一方で、常にきれいな状態を保ちたい、傷が増えることにストレスを感じる、メンテナンスは極力したくない、という場合は、吉野杉にこだわる必要はありません。他県産杉の中でも硬めのものを選ぶ、あるいはオークやアカシアといった広葉樹を検討した方が、結果的に満足することもあります。
重要なのは、「吉野杉が良いか悪いか」ではなく、「自分の暮らしに合っているかどうか」です。素材選びを価値観の問題として整理できるかが、後悔しないためのポイントです。
杉の産地比較から見える無垢フローリングの選び方
産地名よりも見るべきポイント
ブログやカタログでは「産地名」が強調されがちですが、本当に見るべきなのは、年輪の状態、乾燥方法、製材精度、施工実績です。吉野杉はその点で分かりやすい指標になりますが、他県産杉でも条件が整えば、良い床になります。

逆に、産地名だけで判断すると、「思っていたイメージと違う」というズレが生じやすくなります。床材は張って終わりではなく、住み始めてから評価が決まる素材です。
比較することで見えてくる判断軸
吉野杉と他県産杉を比較すると、「どちらが上か」ではなく、「どう使いたいか」という判断軸が明確になります。やさしさを最優先するのか、経年後の安定性を重視するのか、コストとのバランスを取るのか。その答えは家庭ごとに違います。
無垢フローリング選びは、素材選びであると同時に、暮らし方を選ぶ行為でもあります。比較することで、その輪郭がはっきりしてくるはずです。
吉野杉の無垢フローリングは、他県産杉と比べて「特別」な背景と性格を持っています。ただし、それは万能性ではありません。育て方、年輪、経年変化、再生のしやすさといった要素を理解したうえで選ぶことで、初めてその価値が生きてきます。
もし迷っているなら、杉という樹種そのものではなく、「どんな床と暮らしたいか」から考えてみることが、後悔しない近道です。
よくある質問(FAQ)
- Q吉野杉と他県産杉では価格差はどれくらい出ますか?
- A
吉野杉は育成期間が長く、乾燥や選別工程にも手間がかかるため、一般的な他県産杉より価格が高くなる傾向があります。ただし差額は施工条件やグレードによって幅があり、一概には言えません。価格だけで判断するのではなく、経年後の安定性や再生を前提にした価値まで含めて比較することが重要です。
- Q吉野杉はマンションでも使えますか?
- A
使用可能なケースはありますが、マンションごとの遮音規定や管理規約の確認が必須です。遮音性能を確保するために下地構成や遮音マットが必要になる場合もあります。素材として使えるかどうかより、「規約を満たせるかどうか」が判断基準になります。
- Q他県産杉でも年輪が細かいものはありますか?
- A
あります。ただし流通量は限られ、安定して入手できるとは限りません。吉野杉は産地全体として年輪の密度が揃いやすい仕組みが整っているため、品質のばらつきが比較的少ない点が特徴です。個体差を見極める目も重要になります。
- Q杉フローリングはシロアリに弱いですか?
- A
杉はヒノキなどに比べると耐蟻性は高くありません。ただし、床材として使用する場合、土壌からの距離や防蟻処理、床下環境の管理が重要で、素材単体の強弱だけで判断するのは適切ではありません。
- Q吉野杉と他県産杉で迷ったときの判断方法は?
- A
どちらが優れているかではなく、「どんな床と暮らしたいか」を基準に整理することが大切です。傷の許容度、メンテナンスへの考え方、経年変化への価値観を言語化できると、選択は自然と絞られてきます。

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